その車が一台、そこにあるだけで。~老夫婦のカブトムシ~

2021年4月29日
カーメモリー

前回の第三弾は、ルパンも乗っていた、古いフィアット500でした。

心に刻まれた車の第四弾は、老夫婦のカブトムシです。

とある日曜日。ビートの車検が完了しましたという連絡を受けて、代車に乗って引き取りに向かっていました。
信号で停止していると、対向車線の右折ラインに一台のカブトムシが止まっています。

「ああ、カブトムシかあ。」

カブトムシ。そう、初代ビートルです。

タイプ1というらしいですね。私は、ビートルファンではなく、特に詳しいわけでもありません。同じ初代ビートルでもボンネットの形状など、細かいところがいろいろと変わったりしているようなので、詳しい人が見れば、それがどの年代のものなのかは一目でわかったのでしょうが、私にはそれがわかりませんでした。

カブトムシは最近では滅多に見ませんから、その止まっているカブトムシを見て、ああ珍しいなあ、とは思いましたが、それ以上の感情を持つことはありませんでした。そのカブトムシが動き出すまでは。

そのカブトムシは対向車線の右折ラインからゴソリと動き出し、私の目の前をゆっくりと歩いていきました。

カブトムシのガラスは全て透明ですので、オープンではないのにオープンみたいに、その胴体の内部を見ることができました。

自分の目の前を通過していくカブトムシの内部を見て、自分の顔がまあるくなっていきました。

そのカブトムシには、ご年配の夫婦が乗っておられ、そして、奥様の方が運転され、ご主人は助手席に座っていました。

カブトムシは、ゆっくりと、でもギクシャクすることもなく、スムーズに右折して、やがて見えなくなりました。

どのような会話をしながら右折していったのでしょうか。気をつけてねと、ご主人が奥様に言っていたのでしょうか。

いやいや、会話などしなくても、お互いわかり合っている、そんな様子でした。

古い映画の一場面を見たような、そんなやわらかい日曜日の出来事でした。