前回の第三弾は、ルパンも乗っていた、古いフィアット500でした。
心に刻まれた車の第四弾は、老夫婦のカブトムシです。
とある日曜日。ビートの車検が完了しましたという連絡を受けて、代車に乗って引き取りに向かっていました。
信号で停止していると、対向車線の右折ラインに一台のカブトムシが止まっています。
「ああ、カブトムシかあ。」
カブトムシ。そう、初代ビートルです。
タイプ1というらしいですね。私は、ビートルファンではなく、特に詳しいわけでもありません。同じ初代ビートルでもボンネットの形状など、細かいところがいろいろと変わったりしているようなので、詳しい人が見れば、それがどの年代のものなのかは一目でわかったのでしょうが、私にはそれがわかりませんでした。
カブトムシは最近では滅多に見ませんから、その止まっているカブトムシを見て、ああ珍しいなあ、とは思いましたが、それ以上の感情を持つことはありませんでした。そのカブトムシが動き出すまでは。
そのカブトムシは対向車線の右折ラインからゴソリと動き出し、私の目の前をゆっくりと歩いていきました。
カブトムシのガラスは全て透明ですので、オープンではないのにオープンみたいに、その胴体の内部を見ることができました。
自分の目の前を通過していくカブトムシの内部を見て、自分の顔がまあるくなっていきました。
そのカブトムシには、ご年配の夫婦が乗っておられ、そして、奥様の方が運転され、ご主人は助手席に座っていました。
カブトムシは、ゆっくりと、でもギクシャクすることもなく、スムーズに右折して、やがて見えなくなりました。
どのような会話をしながら右折していったのでしょうか。気をつけてねと、ご主人が奥様に言っていたのでしょうか。
いやいや、会話などしなくても、お互いわかり合っている、そんな様子でした。
古い映画の一場面を見たような、そんなやわらかい日曜日の出来事でした。